境界線を越えたくて
 静寂は、風の音が掻き消した。教室から漏れてくるのは「残り僅か」を楽しむ青春の音。
 誰もが皆最後の思い出作りに勤しんでいるというのに、私はひとり、想いを逃そうと励んでいる。

 消えろ、消えろ、消えろ。

 卒業式までには、私もこの恋から卒業したい。

水沢(みずさわ)さん」

 桜の木から私へと視線を移した坂口くんは、中学生活三年間で初めて私を呼んでくれた。想いを逃している最中なのに、新しいメモリーを寄越(よこ)され困ってしまう。

「なに?」

 震える声で、そう聞いた。「坂口くん」と私も初めて呼んでみたかったけれど、その勇気は出なかった。

「明日もここにいる?」
「え」
「明日の昼休みも、水沢さんはベランダにいるの?」

 明日もここで会おうよ。
 そんなことを言われたわけではないのに、約束に聞こえたその言葉。背筋にピリリと電流が走って、むず痒くなっていく。

「い、いるよっ」

 そう頷くと、坂口くんは微笑んだ。
< 4 / 35 >

この作品をシェア

pagetop