境界線を越えたくて
「え、そうなの!?だって今でも仲いいよね?この前も並んで歩いてたしっ」
「仲はいいよ。喧嘩別れしたわけじゃないもん」

 さらさらと小川が流れるような口調でそう言われ、口があんぐり()いていく。

「じゃあ今は、今は誰と付き合ってるのっ?」

 学年イチの美形男子。周囲からの信頼も厚く慕われている彼がフリーなわけはないと思いそう聞いたが、彼はまたもや穏やかに私を喫驚させた。

「誰とも付き合ってないよ。俺モテないもん」

 最後の一文は謙遜だとしても、その前の一文は嘘なのではないだろうか。そう疑ってしまうほど、彼が他の誰かのものではないなんて信じられぬ(まこと)
 力の抜けた私はへなへなと、その場に座り込んだ。

「なに。どしたの」

 そんな私と目線の位置を合わせるように、彼も膝を折り畳む。その刹那くらっと目眩(めまい)がしたのは、彼が私だけを見ていたから。

「私ずっと……ずっと勘違いしてたっ」
「勘違い?」

 叶わぬ恋。努力の許されぬ初めての恋。だから私はこの想いを葬りたくて、ずっともがいていたのに。

 頑張ってもいいんだ……

 これは、心の中だけで言ったこと。
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