境界線を越えたくて
翌日は三月三日、ひな祭り。どんよりとした空模様とは裏腹に、私の心は浮かれていた。
「今日の給食美味しかったね。さすがに刺身は乗ってなかったけど、ちらし寿司っぽくて」
鮭と錦糸卵と海苔とあとはなんだっけと思い出せないのは、給食後のこの時間が待ち遠しくて、味わう余裕などなかったから。
彼は今日も、限りなく二組に近い一組の手すりに手をかける。私が同様のことをすればきっと肩が触れ合うだろう。だからそこには行きたくても行けない。
「じゃあ、なにから聞こうかなー」
しししと白い歯を見せた彼は、顎に手を持っていく。
「水沢さんには今、好きな人がいますか?」
一発目から投下されたとんでもない質問に、唇が勝手に否定した。
「い、いないっ」
「本当?」
「ほ、ほんとほんとっ」
好きな人に「好きな人はいるか」と聞かれて「うん」と答えられる人間は、この恋が成就すると自信のある人間だけだ。
私はまだ、今じゃない。卒業のその時までには打ち明けたいと思っているけれど、今はまだ言えない。
一度玉砕したこの恋はきちんと丁寧に、綺麗にしてから差し出したいんだ。
ふうんと鼻を鳴らした彼は「じゃあ次ね」と続けてくる。どうやら質疑応答形式で進めていくよう。
「好きな食べ物は?」
「いちご、かな」
「苦手なものは?」
「セロリ」
「俺の下の名前知ってる?」
「今日の給食美味しかったね。さすがに刺身は乗ってなかったけど、ちらし寿司っぽくて」
鮭と錦糸卵と海苔とあとはなんだっけと思い出せないのは、給食後のこの時間が待ち遠しくて、味わう余裕などなかったから。
彼は今日も、限りなく二組に近い一組の手すりに手をかける。私が同様のことをすればきっと肩が触れ合うだろう。だからそこには行きたくても行けない。
「じゃあ、なにから聞こうかなー」
しししと白い歯を見せた彼は、顎に手を持っていく。
「水沢さんには今、好きな人がいますか?」
一発目から投下されたとんでもない質問に、唇が勝手に否定した。
「い、いないっ」
「本当?」
「ほ、ほんとほんとっ」
好きな人に「好きな人はいるか」と聞かれて「うん」と答えられる人間は、この恋が成就すると自信のある人間だけだ。
私はまだ、今じゃない。卒業のその時までには打ち明けたいと思っているけれど、今はまだ言えない。
一度玉砕したこの恋はきちんと丁寧に、綺麗にしてから差し出したいんだ。
ふうんと鼻を鳴らした彼は「じゃあ次ね」と続けてくる。どうやら質疑応答形式で進めていくよう。
「好きな食べ物は?」
「いちご、かな」
「苦手なものは?」
「セロリ」
「俺の下の名前知ってる?」