拝啓 まだ始まらぬ恋の候、



余ったら明日の朝ごはんにしようと思っていたのに、彼はホットケーキもすべて平らげた。
食べながら普通に会話もした。
天気の話、近々ある選挙の話。
幼い頃見たアニメの話で、彼は芙美乃より少し年上らしいと推測された。
朗らかな笑い声を立てる彼は、全然死にそうにない。

芙美乃が予定より多くなった洗い物を終えてふり返ると、彼は狭いソファーに身体を丸めて寝こけていた。

「眠れないんじゃなかったっけ?」

寝室のクローゼットから夏掛け布団を持ってきてかけても、そっと眼鏡をはずしてテーブルの上に置いても、それこそ死んだように動かない。
けれど、薄く開いた唇からはかすかな呼吸音がしていた。
よく知りもしない人間の家で無用心だなぁ、と他人事のように思う。

風邪をひかれても困るので、エアコンの設定温度を少しだけ上げた。

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