結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 凛音が目を瞬くと、冬子はおどけたように両手をあげる。

「凛音ちゃんも鈍いわね~。龍一はずーっと昔から凛音ちゃんしか見てなかったじゃない。私はとっくに気がついてたし、なんなら屋敷で働くみんなも知ってたんじゃないの?」

 橘はバツが悪そうな顔でモゴモゴと答える。

「まぁ、薄々とは……」

 冬子はふいに真面目な顔になって、橘に笑みを向ける。

「ここで働くみんなが私を慕ってくれていたことは、うれしく思ってる。でもね、凛音ちゃんを責めるのはお角違いよ」

 冬子は凜とした声で続ける。

「龍一は知ってるだろうけど、凛音ちゃんのお母さまの存在がなくても私はいつかこの家で飛び出していたと思うわ。水無月冬子は窮屈でたまらなかったの」

 この屋敷で暮らしていた頃の冬子は、今とはまるで別人のような従順な奥さまだったと龍一から聞いたことがあった。

 橘は黙って彼女の話を聞いている。

「凛音ちゃんは私のかわいい孫のママになるのよ。みんなで見守ってあげてください。どうしても納得できないという人間は、私が雇うから水無月家を出なさい。それが一番の解決策よ」
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