結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
「ねぇ……若手リーダー研修の件、本当に田中くんに譲っていいの? 私としては、ぜひ水無月さんに参加してもらいたいんだけどなぁ」

 凛音はいやいやと、胸の前で小さく手を振る。

「私なんかより田中さんのほうがふさわしいですよ」

 凛音のつれない反応に早苗は腕を組み、「う~ん」とうなった。

「謙虚さはあなたの美徳だけど、ビジネスの場では自己アピールも大事よ。まぁ、水無月さんだからこその事情もあるのはわかるけど……」

 早苗はそこまで言って、ためらうように口を閉ざした。曖昧な笑みを浮かべるしかない凛音に、早苗は肩をすくめてため息をつく。

「ま、今回は田中くんを推薦するわ。でも、次回こそは考えてみてよね」
「ありがとうございます」

 凛音は頭をさげて、その場を辞した。

 なんとなく席に戻りづらく、そのままお手洗いに行くことにした。

 個室から出ようとしたところで、聞き覚えのある女性の声がしたので思わず手を引っ込める。

「営業部の方は忙しくて、なかなかアポが取れなくて」
「そうね~。月末月初は無理ね」
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