結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
　龍一は卓越したビジネスセンスを持つ天才肌の経営者だが、決してワンマンな手法は取らない。反対派の意見も丁寧にすくいあげ、チーム全体が同じ方向を向くための努力を惜しまない人間だ。

「そういう人だから、社員がついてくるんですよね。今日も社外の方にうらやましがられちゃいました」

　凛音がほほ笑むと、菅原は懐かしむように目を細めて遠くを見た。

「そうですね。社長が我を通したのは、あとにも先にもあのときだけでしたね」
「あのとき？」

　そんなことがあったのかと凛音が小首をかしげると、菅原はいたずらっぽく瞳を輝かせて言った。

「凛音さんを水無月家に残す、そう決めたときですよ。彼らしくないとみなが驚いた」

　とても興味深い話ではあったが、ちょうどそこで奥の社長室から龍一が顔をのぞかせたのでふたりの会話は途切れてしまった。

「凛音さんがいらしてますよ」

　菅原はかけていた椅子から腰を浮かせ、龍一にそう声をかけた。

　龍一は軽くうなずきながら答える。

「ありがとう。入ってくれ」

　後半の台詞は凛音に向けられたものだ。

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