結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 龍一の愛車は国内メーカーの最高級ラインのもので、シンプルなシルバーのセダン。

 彼の地位や年収からすれば控えめな選択だが、『車は移動のための乗り物なのだから、維持管理に手間のかからぬものが一番』と言うのが彼の持論だ。

 当然のように運転席に座ろうとする凛音を、龍一は苦笑しながら制した。

「もうプライベートの時間だ。おとなしく助手席に座っていろ」

 凛音がシートベルトを締めたのを確認すると、龍一はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。地下の駐車場を出て、車は都心の高層ビル群のなかを抜けていく。

「あの、どちらへ?」
「銀座か、イブニングドレスなら六本木がいいかな」

 どちらの街も会社からそう遠くはない。

 凛音は黙って窓の外に視線を向ける。

 隣に龍一の気配があることで、妙にソワソワしてしまう。仕事以外で彼とこんなに近づいたのはいつぶりだろうか。抑えようと思っても、心が躍る。

(銀座か六本木……ふたりきりで?)

 浮かれすぎだと自覚はしているが、無意識に頬が緩む。それを龍一に見られてはまずいと、凛音は車窓にかじりつくように顔を向けていた。
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