結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
(もしかして……あれは最初から縁談が目的で?)

 龍一があのような場に凛音を同伴するのはまれなことで、なぜだろうと疑問に思ってはいたのだ。縁談相手探しだったと思えば、合点がいく。

(そういうことだったのね)

 だが、彼らのうちの誰が『頭取の長男』なのか、凛音にはわからない。彼女の表情から龍一もそれを察したらしい。

「覚えていなくても問題はない。近いうちに、あらためて顔合わせの機会を設けるからな」

 足に根が張ったかのようにぴくりとも動かない凛音を見て、彼は席を立ち、執務デスクをこえて彼女の前まで歩み出てくる。ふっと薄く笑んで、白い歯を見せた。

「心配しなくても、見た目も中身も悪くない男だ」

 凛音はおなかのあたりにそろえていた両手にぐっと力を込める。

(縁談相手のことを気にしているわけじゃない)

 頭取の息子がどんな男だろうが、どうでもいい。若く美しい男でも、冴えない中年でも。彼女にとって、世の中の男性は二種類しか存在しない。

 龍一とそれ以外――。

 彼がこの縁談を既定事項のように話すことに凛音は打ちのめされていた。選択肢はひとつしかないと突きつけられているみたいだ。
< 3 / 117 >

この作品をシェア

pagetop