結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 金曜日。

 淡いラベンダーカラーの清楚でエレガントなイブニングドレスに身を包み、凛音は龍一の前に歩み出る。

 ヘアスタイルはシンプルな夜会巻き、大粒のダイヤモンドのネックレスとそろいのイヤリング。似合っているかを抜きにすれば、パーティーの夜にふさわしい完璧なコーディネートと言えるだろう。

「あぁ、いいじゃないか」

 目を細める彼に苦笑を返す。

「こんなに高いヒールは初めてで、きちんと歩けるか不安です」

 ラメの輝くシルバーのピンヒールは、うっかりするとドレスの裾を踏みつけて破いてしまいそうになるのだ。

 おぼつかない足取りの凛音に龍一はすっと腕を差し出す。

「エスコート役を誰だと思ってる? そんな心配は無用だ」

 不敵にほほ笑む彼に凛音はおずおずと手を伸ばす。

「よ、よろしくお願いします」

 ふたりは華やかな熱気に満ちた会場に足を踏み入れた。

「水無月社長。新事業の立ち上げ、おめでとうございます」
「ありがとうございます。森野会長には、ドバイのプロジェクトのほうにもご尽力いただいて感謝してもしきれません」

 次から次へとやってくる招待客の相手を龍一は如才なく務めている。

 数百人はいそうな取引相手ひとりひとりの名前はもちろん、彼らの事業とバックグラウンドまで正確に把握しているようだ。

 大きなシャンデリアの輝く広間には老若男女、たくさんの人が集まっている。水無月の関連会社はもちろん、メディア関係者、株主、主要な取引銀行、龍一個人として付き合いのある青年実業家の顔も多い。
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