結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 凛音は懸命に声を絞り出す。その必死さを彼に悟られぬように、あえて事務的な口調で返した。

「私がその男性と結婚できれば、グループにとってプラスになるのでしょうか」

 龍一はデスクに軽く寄りかかった態勢で、自身のシャープな顎のラインをなぞる。思案するように斜め上を見ながら、口を開いた。

「まぁ……そうだな。菱木銀行は重要なパートナーだし、なにより菱木(ひしき)(ゆずる)の行っているビジネスも興味深い。連携できれば、新しい市場が広がるだろう」

 縁談相手は譲という名のようだ。そして、龍一はその若き起業家をずいぶんと高く評価しているらしい。

 凛音は迷うように視線を惑わせたが、すぐに諦めて目を伏せた。

(ずっと龍一さんの役に立ちたいと願っていた。彼のお母さまを追い出してしまった罪滅ぼしと、そんな私を助けてくれた彼への恩返し……)

 その機会がやっと訪れたのだ。断れるはずがない。

 龍一の気配が濃厚に満ちているこの部屋の空気を大きく吸い込み、凛音はすっと彼を見据えた。

「かしこまりました。縁談をお受けし、お相手に気に入っていただけるよう精いっぱい努力します」
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