結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 前方の大きな案内標識で、ようやくピンときた。龍一が軽くうなずく。

「そう、今夜はクルーズ事業の試運転がある。お台場から伊豆あたりを回って戻ってくる一番短いコースだな」

 ひと月後に控えた就航開始に向けて、今は最終確認の試運転が行われている時期だ。

「俺はもとから乗船予定だったが、ひとり増えるくらいなら問題ないだろう」
「船……」

 凛音がつぶやくと、龍一はくすりと苦笑を漏らす。

「さっき、発言の撤回は認めないと言ったが、一度だけチャンスをやろうか」

 信号で一時停止した彼が、軽く首を振って凛音を見た。

「今なら引き返してやってもいい。海に出たら、もう逃げ場はないぞ」

 ドクンと大きく心臓が鳴る。龍一は静かな、だが力強い声で言い切る。

「今すぐに帰らないなら……凛音を俺のものにする」

 騒ぎ立てる鼓動がうるさくて、思考がまとまらない。

 わななく唇で凛音は彼に問う。

「りゅ、龍一さんは……逃げなくていいんですか?」
「俺は、一度決めたら迷わない人間だ」

 水無月家に置いてくれると言ったときと同じように、哀れな凛音に情けをかけてくれるつもりなのだろう。

(それでもいい。同情でもいいの)
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