結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 凛音はまっすぐに彼の瞳を見つめ、勇気を振り絞ってきっぱりと告げた。

「私も、逃げません。迷いもないです」

 低く汽笛を鳴らして、大きな船体が夜の海へと漕ぎ出していく。

 水無月シップス所有の客船はきらびやかでゴージャスだ。フレンチレストランにカジノ、プールや観劇用の舞台もあり、船内から一歩も出なくともリゾート気分を満喫できる。客室も全室がスイート仕様で、調度品も素晴らしい品をそろえている。

 だが、凛音にそれらをゆっくりと楽しむ暇は与えられなかった。龍一は部屋に入るなり、扉に凛音の身体を押しつけて唇を奪った。彼女の背中側にある鍵を龍一がカチャリと回す音がやけに大きく響いた。

「これで本当に逃げられない。覚悟しろよ」
「あっ」

 柔らかな舌が口内を這う。混ざり合う唾液は蜜のように甘く、凛音の脳をとろけさせる。

 キスだけでこんなにも頭がフワフワするものだなんて、凛音は知らなかった。どんなお酒よりも龍一のキスは凛音を酔わせる。

「待っ、初めてなので……どうしていいか、わからなくて」
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