結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 龍一は自身の唇の端を指先でトントンとして、凛音にそれを教えてやる。

「えぇ?」

 凛音は恥ずかしそうに慌てて拭ったが、残念ながら反対側だった。

 龍一はすっと彼女に身体を寄せる。不思議そうな顔でこちらを見あげる凛音の頬から、ぺろりとそれを舐め取った。舌先にわずかに触れた彼女の唇の甘さに、龍一の芯が熱くなる。

(船をおりたら、もとの関係に戻る。だから、あと少しだけ……)

 彼女は『一夜だけ』と言った。かりそめの恋人時間はもう終わったのだ。

 だが、未練がましい龍一は勝手な判断で『船をおりるまで』に変更した。

 ふたりの唇がゆっくりと重なる。龍一がそっと舌を差し入れると、凛音が不器用ながらに応えてくれる。初々しくぎこちない反応は、余計に龍一を昂らせる。

 誰よりも、なによりも、凛音が大切なのに、龍一は彼女を傷つける言動ばかりを繰り返してきた。

『お義兄さま』

 かつて、凛音は自分のことをそう呼んでいたのだ。

『やめろ。頼むから……そう呼ぶのはやめてくれ』
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