結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 思わずそう口走ってしまったのは、凛音が二十歳になった日のことだった。

 龍一が贈ったアイボリーのドレスを胸に抱いた彼女の、凍りついた顔を忘れることは決してないだろう。

 普段から水無月を名乗ることに後ろめたさを感じている彼女に、そんな台詞を吐けば傷つけることはわかっていた。

 それでも言わずにはいられなかった。

(兄にはなれない。お前を妹だと思ったことなど……一度もないんだ)

 彼女への恋情に気がついたのはいつだったか。

 凛音は『自分たち母娘が幸せだった水無月家を壊してしまった』と思っているようだが……それは違う。

 政略結婚だった龍一の父母の夫婦関係は初めから冷めきったものだったのだ。離婚して水無月を出た龍一の母親は、すぐに自分でビジネスを始め成功をおさめた。仮にビジネスが失敗しても困窮する身分の人間ではないし、水無月の奥さまだった頃よりずっと楽しそうに暮らしている。

 だから、凛音たち母娘に恨みはない。とはいえ、好意的に歓迎できたわけでもない。

(金目当ての女とその娘、厄介だな)

 そんなふうに感じていた。
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