結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 両親が亡くなったのち、凛音を家に残すと決めた理由は自分でもよくわかっていない。ただ……子どもらしからぬ冷めた目をした凛音が自分の分身のように思えたのだ。

 謙虚、穏やか、人当たりがいい。多くの人間が龍一を〝好青年〟だと評価する。
だが、その姿はありのままの龍一ではない。水無月の名を背負って、財界で生き抜く。そのために後天的に手に入れたキャラクターだ。

 本来の自分は何事にも無感動なつまらない人間なのだ。

 そんな龍一が、どうしてか凛音がかかわると心が動いた。意地悪を言ってみたくなったり、喜ぶ顔を見たいと思ったり。それが恋だと気がついてしまったら、もう引き返せなかった。

 義理とはいえ兄妹。それに、龍一といると凛音は永遠に罪悪感に苦しむことになるのだ。離れるほうがお互いのためになることは、わかりきっている。

 実際、凛音は何度か水無月から離れることを提案してきた。

『寮のある地方国立大学を受験したい』
『大阪拠点の会社に就職したい』

 龍一はそのたびにもっともらしい理由をつけて、彼女を手元に置いた。

(傷つけるばかりなのに、どうしても手放したくない)
< 65 / 117 >

この作品をシェア

pagetop