結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 だが、それももう限界だった。大人になった凛音が自分を見る眼差しに、甘やかなものが交じるようになったことに気がついたからだ。

 彼女を不幸に引きずり込む前にどうにかしようと、龍一は凛音の良縁を探した。自分などより彼女を幸せにできる男を見つけようと躍起になった。そしてすべての準備が整ったというのに……自らそれを握りつぶしてしまったのだ。

 小さな唇を解放してやると、凛音は困ったように眉尻をさげて笑う。

「一夜だけって約束だったのに、ずいぶんサービスしてもらっちゃいました」
「凛音……」

 呼びかけたものの、言葉が続かない。

『縁談なんてやめて、俺のものになれ』

 そう告げることで、彼女の一生を台無しにするのでは? 

 そう思うと、声が出なくなる。

「船をおりたら、龍一さんはすべて忘れてください。私は約束どおり、縁談相手の妻になりますから」

 妻。その響きに苦いものがこみ上げてくる。

 凛音は今にも涙がこぼれそうな笑顔で言った。

「でも、私は覚えていてもいいですか? 死ぬまで口にはしないので、どうか許してください」
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