結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
(俺と一緒になることで、凛音にふりかかる災いは必ずあるだろう。でも、そんなもの帳消しになるだけの幸福で満たしてやればいい)

 むしろなぜもっと早く、この結論に至れなかったのか。今になってみると、それを不思議に思うほどだ。

(声だけでも聞きたい)

 そう考えた龍一はスマホから凛音に電話をかける。呼び出し中のメロディーが流れるだけで応答はない。

 寝ているだけならいいが、もしや体調に異変が? 

 そう思ったら、いてもたってもいられない。急いた様子で、今度は自宅の固定電話への発信ボタンを押す。

 こちらはすぐに応答があった。長年勤めている中年女性の声だった。

「あぁ、俺だ。忙しい時間に申し訳ないんだが……凛音の様子を見てきてくれないか。寝ているようなら起こす必要はないから」
『はぁ、凛音さんの……かしこまりました。少しお待ちを』

 やや歯切れの悪い返答のあとで、保留音が流れ出す。

 彼女らは龍一のことは『龍一さま』と呼ぶが、凛音には『さん』づけで通している。彼女が屋敷に来て十年以上の月日が経つというのに、いまだ納得できていない様子だった。

(もしかしたら、会社よりこちらのほうが厄介かもな)
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