結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 はたして、彼女たちが『凛音さん』をすんなり『奥さま』と呼んでくれるだろうか。

 しばらくして、彼女が電話口に戻ってきた。

『あの、それが……凛音さんいらっしゃらなくて』
「はぁ?」

 ほんの一瞬、彼女の嫌がらせだろうかと思ってしまったのだが……スマホの向こう側から伝わってくる困惑した気配は演技ではないだろう。

 とがめるような声を出してしまった自分を反省し、龍一は慌てて語調を弱める。

「ちょっと買い物に出ているとか、そういうことか?」
『いえ、誰もなにも聞いてないようです。それに、ちょっとお部屋に違和感が』
「どういう意味だ?」
『凛音さんのお部屋はいつもご自身で清掃なさっているので、絶対とは言い切れませんが……やけに片づいていてスッキリしているように見えました』

(まさか……)

 スマホを握っていた龍一の右腕がだらりと力なく垂れる。

 ゆうべの凛音の惑うように揺れていた瞳が脳裏に蘇る。

 あれは龍一と両思いであったことへの戸惑いではなかった。おそらく義兄妹なのに……という迷いだ。
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