結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 スタスタと彼がそちらに歩いていって、ドアを開ける。

 バタバタと大きな足音をさせて龍一がリビングに飛び込んできた。

「凛音!」

 彼はまっすぐに駆けてきて、凛音を抱き締める。

「安静にしていろとあれほど言ったのに」

 怒りと安堵の入り交じるその声はかすかに震えている。

「身体は大丈夫か?」
「はい。ちょっと暑さに参ってしまっただけで」
「よかった。凛音とお腹の子に万が一があったらと……」

 龍一は凛音の背を撫で、大きく息を吐き出した。どれだけ心配をかけたのか、彼の額から流れる汗を見ればすぐにわかる。

「ごめんなさい」

 凛音は心から詫びた。

(自分勝手に飛び出したのは、浅はかだった。どんな未来を選ぶにしても、きちんと龍一さんの意見も聞かないと)

 凛音は自身のおなかに両手を当てる。

(この子は私ひとりの子じゃない。龍一さんにとっても大切な我が子なんだから)

 龍一は凛音を抱き締めたまま、くるりと真後ろに立つ菅原に視線を向ける。

「凛音を助けてくれたことには心から感謝する。だが……どうしてお前の部屋なんだよ?」

 怒りを隠さない声で彼は問い詰めるが、菅原はけろりとした顔で返す。
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