結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 妊娠七週、凛音のつわりは一進一退の状況だった。

 今日は調子がいいかなと思うと、翌日は寝込んでしまったり、まだまだ先は長そうだ。ダメだと思った日は無理をしない、それが一番だということもわかってきた。

 父親が誰かまでは話していないが、上司の早苗には妊娠の事実を告げ配慮もしてもらっている。

(でも、今日だけは多少無理してでもきちんとしなくては!)

 凛音はぐっと顔をあげ、自分の心に喝を入れる。

 目の前にある二階建てのオシャレな建物は、菱木譲が経営するIT企業の本社だ。

「ビジネス街のタワービルとかじゃないんですね」

 勢いのある若手企業家はそういった場所にオフィスを構えるイメージがあった。龍一はくすりと笑って答える。

「あぁ。ブランドイメージではなく実力で勝負できるという自信のあらわれだろう」

 訪問の目的はもちろん、縁談をキャンセルする謝罪のためだ。

 龍一はすべてを正直に伝えたいと言った。凛音は彼のこの誠実さが大好きなので、異論はない。

 穏やかな笑みで譲は出迎えてくれた。

「あぁ!」

 凛音はそこで初めて、あのパーティーの参加者のうちの誰が菱木譲だったかを知ることになる。
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