天才幼女錬金術師に転生したら、冷酷侯爵様が溺愛パパにチェンジしました！２

　先ほどから、ドーナツを揚げているいい香りが漂ってきて、ミリエラの胃を刺激するのだ。

「……よくできました」

　父の手がミリエラの頭を撫でた。こうされると、本当の親子のようで安心するなんて言ったら、おかしいだろうか。本当の親子なのに。

　屋台でドーナツと果実水を買う。棒をねじった形に揚げられたドーナツには、たっぷりと砂糖がかかっていた。紙にくるまれたそれを受け取ると、まだ、ほんのりと温かい。

「ありがとう、パパ！」
「どういたしまして」

　満面の笑みでお礼を言うと、同じように笑みが返される。

（……嬉しい）

　好意には好意が返される。去年までは、こんな日常を知ることもなかった。

　ミリエラに許されていた小さな世界では、ミリエラに愛情を注いでくれる人はいても屋敷の外に出ることはできなかった。

　屋敷の別館でひっそりと生きてきたミリエラの存在を知っている人すらほとんどいなかっただろう。

「揚げたては、熱々でおいしいね！」
「舌を火傷しない様に気をつけて」
「うん！」

　石段に腰かけ、ドーナツを半分、果実水も半分ずつ分け合う。それから再び、あちらこちらと見物して回る。