私たちはこの教室から卒業する。
 葵の寝顔を眺めながら、先生から聞いたもうひとつの話の事について考えていた。

「夢に現れる理由に関係ないのかも知れないけどね、教卓の中の目立たない場所にガムテープが貼ってあってね、それを剥がすと、紙に彼が大切にしていた物が包んであるの」

 それは先生が貼ったものらしかった。
 他の先生も知っているらしいけれど、生徒は誰も知らないみたいだった。

 彼は病気で亡くなってしまったらしい。詳しく病名とかは聞かなかったけれど、身体が弱く、保健室によく来ていたようで。

 教卓の中を覗くと、一番奥の上の端辺りに、色が周りに馴染んでいるベージュのガムテープが貼ってある。じっくり覗く人はそうそういなさそうだから、気づかれないっぽい。剥がすと、先生が言っていた通り、白い紙に何かが包まれている。それを開くと、とても小さな、僕の親指くらいのシロクマのキーホルダーが出てきた。

 彼が大好きだった今は亡きおばあちゃんと一緒に大好きな動物園に行った時、買って貰ったらしい。

「僕だと思ってね!って彼が亡くなる前、そう言って私にくれたの。色々考えて、彼は日頃、調子が悪い時に保健室でずっと『みんなと授業を受けたい』って言っていたから、彼が大好きだったあのクラスにずっといてもらう事にしたの」
  
って先生は言っていた。



 葵の寝顔を眺めながら僕は考えていた。

 ――もしかして、葵が夢を見るのは、それがこここにあるからで、教室からいなくなれば、葵が彼の夢を見ることはなくなる?


 僕は、シロクマをズボンのポケットに入れて持ち帰った。
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