マーガレット
もうここにはない奇跡の中できみを探す。

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おぼろ月がカリブ色の空に輝いた。
今日は深夜から明け方にかけて雨予報だった。
道行くひとは、誰も傘なんて持っていない。
けれど空は、少しずつ雨雲が混じり始めていた。
交差点の信号が赤になった。
その信号に気づきながらも何人もの人が
走りながら渡っていく。
今信号を待っている人はどんな気分だろう。
きっとそんなことを考えてるのは私だけ。
仲良さそうに話している高校生。
有名な塾のバッグを背負った小学生。
腕時計を気にしながら待つスーツ姿の男性。
お米炊いといて!と電話している主婦。
色んな人がいて色んな背景がある。
それぞれ何か荷物を抱えていて今日も生きてる。
この中の何人の人が
一度は死にたいと思ったことがあるだろう。

スマホに目を落とすと君からの通知がみえた。
「じゃあわからないよもう」
その言葉が私には重く刺さった。
今まで彼の言葉を疑ったことなんてなかった。
だからこそ疑い始めてしまったら
ブレーキを踏んでも止まれなかった。
そういうとき知らせというものは、
自然と集まってくるものでいろんな人から
聞く情報の数々が私の心をえぐった。
信じ難い話に気がめいりそうになりながらも
話を紐解いていく。
そして気づく。
私は弄ばれていたんだ。

信じたくない、許せない。
そんな感情よりも、気付かなかった自分が
1番憎かった。
だんだん呼吸が乱れていく。
あぁ、またやっちゃった。
自分で自分のコントロールが効かなくて
ストレスを感じてしまう。
立っていられなくてしゃがみ込む。
どうしていつもこうなんだろう。
1人の主婦が私にしゃがんだ声をかけて来た。
「大丈夫?顔色悪いけど、、、」
私は黙って頷くとその人は信号を渡った。
なぜだろう、私はその信号を渡れなかった。
その信号を渡ったら私は私じゃなくなる気がした。
どうにかしなければ。
信号の前にあるドーナツ屋を見つけ、駆け込んだ。
何も考えずにホットコーヒーとフレンチクルーラーを注文すると
一番奥の席に腰を下ろした。
さっきまで渡れなかった信号は、私のことを
忘れたかのように点滅している。
私はカバンに忍ばせていた辻村深月の「家族シアター」を
取り出してしおりの挟まったページをさっと開く。
本の世界に取り込まれた私は、我も時間も忘れ、
のめりこんでいた。
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