隣の席に座るヤンキー男子の癖は甘噛みです
11.好きな人の好きな癖
若林くんのお姉さんが、美容師だって初めて聞いた。
まだ新人なので、カットモデルを探してたんだって。
ちょうど今日、行く予定だったらしく、ついでに私を誘ってくれたみたい。
制服姿だし不安だけど、お邪魔することに決めた……
美容室は休業日で、店内に入ってもお客さんの姿はない。
私を見たお姉さんは、目を輝かせながら手招きしてる。
どうにでもなれと、おまかせコースでカットが始まった。
ボサボサの長い髪を、手早く切りそろえていく技法に驚きを隠せない。
毛先が肩に少しかかるぐらいの長さ、前髪も顔がハッキリ分かるぐらいパッツン。
量が多くて重く見える髪もサラサラに変化、眉も整えてもらって完成。
鏡に映る自分を見てるけど、別人みたいでドキドキしてしまう。
こんなにしてもらったのに無料だなんて、ちょっと気が引ける……
「じゃあな隠れ地味子、来週の月曜日また学校でっ!」
そう言い放ったヤンキー男子に、美容室を追い出された。
次は彼の番らしく、私に見られたくなかった様子。
トボトボ道を歩く自分の姿が、ショップのウインドーに反射され全身が見えてしまう。
やっぱり、まるで雰囲気が別人。
背筋を正して胸を張り、制服のスカートを短くしてみる。
「なんか、女子高生っぽい……」
いや、私は正真正銘の女子高生だった。
メガネをかけ忘れてるのに、なぜか視界がいい。
私は、家に帰るまでずっと笑顔ですごしていた。
来週の月曜日、停学開けのヤンキー男子と学校で再会することを夢に見て……