最愛の日々にピリオドを、
圧倒的言葉足らずな夕雅は、付き合う前には完全に友達という境界線を貼ってるようにしか見えなかった。
付き合ってからも、甘えモードにならない限りわたしたちは親友みたいな恋人で、喧嘩の内容なんてくだらない日常に怒るようなことばかりで、周りには呆れられているくらいだった。
「言葉にしないのは呉羽も同じだろ」
「まあ、確かにそう」
「まあ拗ねてるのとか特に分かりやすかったけどな。あえて言うまで知らん振りしてたけど」
「は、別に全然拗ねた記憶ないんですけど」
「嘘つけ、俺がバイト先のヤツらと飲み行くって言ったときめちゃくちゃ不安そうな顔してたぞ」
「付き合う前にバイト先の後輩に告られたとか聞いてて不安に思わないやついる?」
「あ、そっちだったの?男女の飲み会だから嫌だったんじゃなくて?」
「あんたが手出すなんて思ってないけど、夕雅のことが好きな子に誘惑されたらワンチャン乗っかっちゃうんじゃないかとは思ってた」
「お前あんとき夕雅のこと好きとか私くらい物好きいるんだとか言ってなかった?」
「私だけでいいじゃんって思ってたのは確かよ」
「そういうのはもっと早く言えよ」
「お互いさまでしょ」
お世辞にも新しいとは言えないアパートの階段を2階分上がって、右から2つ目の扉。
ビニール袋を提げてる夕雅はポケットをまさぐって鍵を探している。が、ちっとも出てこないので私がキーケースから取り出した鍵で開ける。
この鍵もらったの、いつだっけ。
当たり前に自分のキーケースの実家の鍵の横にぶら下がっているそれも、今日で見納めだ。
キーケース、というくせに2つしかついてなかったそこはまたひとりぼっちになってしまう。