いつまでもキミの記憶に残りたい。
「桜ってね、そこに花が咲いて初めてそこに桜があることに気づかれるんだよ。」





2人きりの教室。





窓際に立ち、そう語っているキミ。





視線の先にあるのは大きく誇らしげに咲いている桜の木。





淡いピンク色をしている花びらが宙を舞い上がる。





「よっ、、」





手を伸ばし、一生懸命取ろうとしているがそれはすばやく姿を消してしまう。





「難しいだろ…」





「取れそうなのにね。」





悔しそうに眉を下げる。





でもきっと…





キミは諦めてない。





負けず嫌いなキミがそんな簡単に折れないはず。





身を乗り出して、舞い散る姿を眺めている。





真剣に花びらを追ってるぱっちりした大きな目。





まっすぐ切り揃えられてる前髪。





強く握りしめられてる手。





抱き締めたら埋もれちゃいそうな華奢な体格。





この時間を忘れたくない、そう思った。





強く、強く、…





目に焼き付けるように見つめた。












「さっきの話し、、だけどさ…」





時を巻き戻すようにさっき言ってたことを思い出す。





「花が咲いて初めて気づかれるのなら、それまで忘れられてるってこと?」





花が咲いて皆『綺麗』だの『好き』だの言い合い、写真を撮り、花見をする。





そのシーズンでは盛り上がり強く記憶に残るが…





散ってしまうとそれまで。





どこにいるか…





今どんな姿か…





存在もろとも忘れられてしまう。





「そうだよ。ほとんどの人の記憶から消えちゃうの。」





そう呟くキミと桜が同調して、消えてしまいそう。





思わずソッと体を抱き締めた。





変態っ、と怒られるかと思ったが、素直に僕の腕の中に収まっている。





ずっと窓際にいたからか、髪の毛についてしまった花びらを取る。





「ずっと掴めなかったのに…」





悔しそうにそう言っている目にはうっすら涙が浮かび上がっている。





「僕は忘れないよ。花が散っても、ここにいたことも、過ごした時間も…全部。」





楽しかったから、幸せだったから。





理由はありきたりかもしれないけど…





心の底からそう思える大切な時間だった。





もしも…





キミのことを周りの全員が忘れてしまっても





僕だけは絶対に忘れない。





そう誓える。





「なに嬉しいこと言ってくれるの…」





なんて強気で返している言葉は震えている。





うつむいてる顔と身長差もあり、表情が見えない。





でもキミは泣き虫だから。





我慢しきれてないことなんて簡単に想像出来る。





「本当はね…別れたくない、、」





やっと出た本音。





キミはもうじきこの街を飛び立つ。





ここからじゃすぐに会えない場所へ。





初めてばかりできっと不安でいっぱいなのだろう。





強がって言うことが出来なかったこと。





ようやく僕に話してくれた。





「きっと大丈夫。」





ゆっくり頭を撫でる。





キミには僕がついてる。





それは離れても変わらないから。





「髪、、ぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん…」





なんて言ってるくせに耳は真っ赤に染まっている。





それが僕にも移り、沈黙が生まれる。





しんとなった教室は秒針を刻む音と





外の風の音だけが聞こえる。





我に返り、腕の中を見つめると気づいたのか視線が絡まり合う。





「なんか…恥ずかしいね、」





「うん。慣れないことするもんじゃないね。」





いきなり抱き締めるとか…





今考えると、そんな度胸が自分にあったことに驚く。





「でも…嬉しい。」





はにかんで笑うキミ。





出来るなら…





ずっとそばに居たいよ。





その笑顔を守っていたい。





涙なんてもう2度と流さなくていいように。





届かぬ願いが桜と共に風に舞っていく。





腕の力を緩める。





そうしただけで、どこか寂しさが増してしまった。





白い肌に紅潮した頬。





そこにソッと唇を落とした。





「これでお互いに忘れないでしょ?」





少しいたずらげに笑うと、





こくりと縦に首が動いた。












キミは桜のように儚げ。







離しただけで何処かへ消えてしまいそう。







でも、この誓いは消えない。







忘れることのないよう、








記憶に刻んでおこう。









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