孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
胸を反らしてまっすぐ見上げると、霧生先生がふっと眉根を寄せた。


「君は、誰かと約束してるの?」

「……さあ?」


遠慮のない質問に内心怯み、明後日の方向を向いてうそぶく私に、


「ドライだな。名残惜しいとかないの?」


どう解釈したのか、不服そうに腕組みをする。


「最初からそういう約束だったのに、名残惜しかったら困るでしょ」


私は目を伏せ、用を終えたペーパータオルをダストボックスに放った。
霧生先生が、「そうか」と溜め息をつく。


「年が明けたら、君が僕の分もついでに作ってくれたメシにありつけないのか。寂しい限りだ」

「……心にもないことを。霧生先生の方が、料理上手じゃない」


私は思わず苦笑しながら、憎まれ口を叩いた。
霧生先生がなにも言い返さないから、ほんのちょっと……いや確かに、彼が言う名残惜しさのようなものが胸を掠める。
彼のスリッポンタイプの靴の爪先に目を落としてから、気を取り直し、


「まあ……そう言ってくれるならさ」


意識して明るく顔を上げた。


「大晦日。私がご飯作るから、盛大に納会しよう」

「……納会?」
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