孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
もちろん、看護師はみんな知り合い。
手洗いを終えた私がガウンを着るのを、生真面目な顔でアシストしてくれる彼女は、二年下の藤村(ふじむら)さんだ。


「はは。あけましておめでとう。今年も、病院で新年一発目に、藤村さんと挨拶した」


苦笑しながらガウンの紐を受け取り、首の後ろで結ぶ。


「今年もよろしくお願いします」

「こちらこそ。私、どこ入ればいい?」


くるっと回れ右して訊ねると、彼女はガラス窓の向こうに広がる処置室を振り返った。


「これから、消化管出血疑いの患者さんが運ばれてくるので、消化器外科の堀米(ほりごめ)先生の介助を」

「消化管? 上下どっち?」

「救命士が吐血と連絡してきたので、上部消化管かと」

「それじゃ、内視鏡で検査しつつ出血箇所を特定して、結紮も済ませる感じだね」


私が理解を伝えると、藤村さんも大きく頷いた。


「さすが、茅萱さん。物品は揃えてあります」

「了解」


オンコールで救急のヘルプに入る時、私たち手術室看護師の役割は、処置やオペの器械出しだ。
業務範囲が広く、オペの進行や全体を把握する能力が必要な外回りは、手術部でも、器械出しをマスターして初めて就くことができる。
私も、丸三年経って一通りのオペの器械出しに自信がついてから、外回りデビューした。


救急はあくまでも他部であり、外回りは次々に搬送されてくる患者の受け入れも対応するため、私たちが就くことはない。
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