孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
余裕を持って身支度できなかったのは、私と同じだろう。
厚手のニットにブルーデニムという、彼女にしてはカジュアルな服装だ。


「ちょうどよかった。話したいって思ってたの」


私は、彼女に駆け寄った。


「いいよ~。今年も、オンコール明けからの初詣行く? 拝んどこうか」


操は膝の上で両手で頬杖をつき、上目遣いに含んだ誘いをかけてくる。
去年の初詣での、私の結婚神頼みを匂わせているのだろう。
私は眉をハの字に下げ、情けない顔をしてみせた。


「いいね。着替えてくるから待ってて」


気を取り直して職員更衣室に向かおうとして、思わず立ち止まった。


「? 霞?」


操が私を見上げてから、私の視線を追って首を伸ばす。
そして、


「……誰?」


訝しげに首を傾げた。


「え? 誰って」


私は彼女の質問に戸惑いながら、すぐに口を噤んだ。
私も一昨日の夜、その変貌ぶりに度肝を抜かれたばかりだ。
目の前から来る非の打ち所がないイケメンが霧生君だと、オペ中の彼しか知らない操に一目でわかるわけがない。


「ええと、あれは……」


説明しようとする私の前に、霧生君がゆっくり歩いてきた。


「お疲れ様です」


操にちらりと目を遣り、労いの言葉を口する。
< 105 / 211 >

この作品をシェア

pagetop