孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
去年は馬鹿みたいにお賽銭を奮発したけど、高ければご利益があるというものじゃないし、今年はそれほど力入れた願い事もない。


お賽銭箱の前で霧生君と並んで手を合わせ、後ろの人に場所を開けて拝殿から離れた。
参拝の列から外れ、境内をのんびり歩き、


「霧生君、なにお願いしたの?」


ちょっと興味本位で、見上げながら探りを入れてみた。


「言ったら、叶わないでしょ」


霧生君の返事は、わりとつれない。


「つまり、ガチなお願い事だ」


彼はコートのポケットに手を突っ込み、ひょいと肩を動かす。


「神様じゃなくて、君に願うべきことだけどね」


表情を変えずにさらりと言われて、私はぎくりとして口を噤んだ。


「え、ええと……」


――多分、墓穴を掘った。


『僕を好きになって』


霧生君の中で、私に関する願い……それしか思いつかない。
私は答えに困って言い淀み、目を彷徨わせた。
私の戸惑いを察してくれたのか、霧生君は足元に目を落とし、かぶりを振る。


「……行こうか。人混みから外れると、境内は寒い」


私にくるっと背を向け、コートのポケットに両手を突っ込んだ。
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