孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
人混みなんて、私より霧生君の方が嫌いそうなのに。
確かに、天気はいいけど空っ晴れだ。
風通しのいい境内は乾いた冷たい風が吹きつけていて、さっきまでは気にならなかった寒さを感じる。


「うん……」


彼が話題を逸らしてくれて、私はホッと息をついた。
境内を出て、参拝客が列をなす参道を、流れとは逆に進む。
歩幅を合わせてくれる彼の横顔を、そっと窺う。


――そう言えば、大晦日はニット帽を被っていたっけ。
髪を短くして、頭や首筋が寒いのかな。
コートの襟を立て、首を縮めてちょっぴり猫背気味。


それでも、神がかり的な美顔は隠しようもなく、すれ違う列の中から何人もの女性が彼を振り返り、わざわざ二度見していく。
「誰? 芸能人?」なんて、ヒソヒソ話す声まで聞こえてくる始末だ。
と、その声に紛れ――。


「ほんとほんと。お姉さんじゃなくてお母さん。いや、ほとんど家政婦頭だね」


少しトーンの高い男性の声が耳に届き、私はビクッと肩を震わせた。
その場で足を止め、声の主を探して辺りを見回す。


「家政婦? しかも頭って、喩え方酷くない?」


続いて聞こえたのは、咎める言葉とは裏腹に愉快げな笑い声。
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