孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
霧生君がホッと息を漏らし、柔らかく口角を上げる。


「いきなり立ち止まってるから。虚空に話しかけそうになった」


私は、微笑む彼にパチパチと瞬きをしてから、


「ええと……なにをしてるのかな?」


辺りに視線を走らせながら問いかけた。
参拝客で賑わう神社の参道。
向かい合って突っ立ち、両手で私の耳を塞ぐ彼の行動は宗教の勧誘のようでもあり、私たちにチラチラと視線が向けられる。


「き、霧生君」


私は霧生君の両手に手をかけ、自分からそっと離させた。
思い切って、彼の向こうの参道に目を遣ったけれど、剛と彼女の姿は見つからない。
思わずホッとして、胸を撫で下ろす。
そうして初めて、心臓が怖いくらい速く打っていたことに気がついた。


「落ち着いた?」

「え?」

「泣かずに済みそう?」


続けて問われて、私はきょとんとして首を傾げた。


「泣く?」

「聞き返されるってことは、大丈夫そうかな」


霧生君は煙に巻くような言い方をして、ひょいと肩を動かす。
そして、一瞬にして表情を険しく歪めた。


「君はここにいて。ちょっと、殴ってくる」

「行ってらっしゃ……えっ!?」
< 115 / 211 >

この作品をシェア

pagetop