孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
午後六時。
私が手術部のナースステーションで、パソコンで電子カルテを開いて手術記録を書いていると。


「あ~、疲れた」


お腹の底から吐き出すような声と同時に、同期の看護師、鹿野(かの)(みさお)が戻ってきた。
手で肩を解し、首をコキコキ鳴らしている。


「お疲れ」


私が声をかけると、「あー」とさらにド太い声が返ってきた。


「霞、早かったんだね」

「うん。操は、心臓外科の園田(そのだ)教授、直々のご指名でしょ?」

「まあね。そっちは、脳外の霧生先生の経鼻内視鏡だったっけ?」


楕円形の大きなテーブルの向かいにドスッと腰を下ろす彼女には、頷いて応えた。


「どうだった? 教授が熱いラブコールを送って、パリから逆輸入した天才の、内視鏡下のドリル捌きは。うちでは経鼻内視鏡、初執刀じゃなかったっけ?」


おどけたウィンクを投げられ、その言い回しに思わず苦笑する。


「繊細だったよ。鉛筆動かしてるみたいで」

「なんだ、地味で残念」


操はふふっと鼻で笑って、ノートパソコンを開いた。
そして、「ん?」と顔をしかめ、モニターを食い入るように見つめる。


「わー。来週って、もうクリスマス?」


どうやら、カレンダー表示が目に入ったようだ。
大きく目を剥き、椅子に深く凭れかかって天井を仰ぐ。
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