孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「結婚願望のないKと、結婚に破れてもう恋をする気がない霞。その辺で利害が一致したんだろうけど、息苦しかったら、Kも結婚継続なんて言い出さないでしょ」


人差し指を口に当て目線を上げる彼女に、私は一瞬返事に窮した。
確かに霧生君からは、『息苦しくない』と言われたけれど――。
なにも、意気投合して結婚継続に至ったわけじゃない。
さらに、その後の赤裸々な言葉を思い出し、意思に反して頬がボッと火照るのを感じた。
慌てて両手で頬を押さえ、顔を伏せる。


「霞の方も、彼の年内最後のオペに、私と交替してまで入りたがったくらいだし。Kとの契約結婚生活が居心地よくて、わりと名残惜しかったんじゃ……って、どうしたの?」


操は、頭のてっぺんから湯気が立つ勢いで顔を赤く染める私に気付き、訝しげに眉をひそめた。
私は反射的にブンブン首を横に振って誤魔化す。
操はやや胡散臭そうな視線を注いでから、椅子に深く背を預けて踏ん反り返った。


「霞がKを好きになれば、一件落着。それでいいんじゃない?」

「……だから、言ったじゃない。私は、彼の好きな人とは言えないって」


軽い調子で結論付けられ、私はがっくりとこうべを垂れた。
手の指から力が抜け、ロールケーキが蕎麦の上にボテッと落ちる。
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