孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす～契約離婚するはずが、容赦なく愛されました～

「っ……」


拾い上げようとしたものの、蕎麦つゆを吸ってしまっているのを見て、トレーごと左に退けた。


「なんで言い切るのよ」


操からのツッコみに答えを探しながら、落ち着かない気分で目線を彷徨わせる。
――どうしても気になる。
私が忘れている、中学時代に霧生君との間にあったこと。


きっと、私には些細なことだったから覚えていないんだろうけど、霧生君にとっては忘れられない思い出。
人は、嫌なことほど覚えているもの。


そう考えると、私は無自覚に彼を傷つけていた可能性が高い。
それなら、霧生君が私のことを好きだとは考えづらい。
やっぱり、恨まれていたと言った方が――。


「もしかして、復讐……？」


私は、無意識に口に出して呟いた。
「霞？」と窺う操には答えず、額に手を当てて思考を巡らせる。


三ヵ月前、私は剛に振られた後で、どうせ一生結婚しない、一度くらい戸籍を汚したって支障はないと自暴自棄になって、契約結婚に応じた。
霧生君も、自分の人生に恋愛や結婚は不要と言い切る人だ。
私以上に、戸籍なんかどうでもよかったはず。
それを利用して、意地悪な仕返しのつもりだったのかもしれない。
――でも、なんの仕返し？