孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
結局、そこで思考が行き詰まる。
操は怪訝を通り越して不審げな顔つきで、私を見守っている。


「あ、ううん」


私はとっさに表情を繕い、ぎこちなくかぶりを振ってみせた。
だけど、無理矢理作った笑顔は、すぐに強張り消え失せる。


復讐だなんて、いくらなんでも考えすぎだ。
だって、霧生君は私に優しい。
再会したてのあの時、人目を憚らずに泣く私に胸を貸してくれた。
契約結婚なんてとんでもない提案にしても、結果的に私ばかりメリットがあって、一緒に暮らした三ヵ月間、彼は常に紳士的だった。


クリスマスだって……私の意思がなきゃ、あんなことにはならなかった。
結婚継続は強引だったけど、私を侮辱して笑い者にした剛に怒り、『許せない』と言ってくれたのはつい一昨日のことだ。


そんな彼に、私は間違いなく胸がきゅんとして――。
ことあるごとに彼の言動にときめいている自覚があるから、そのすべてに裏があるなんて思いたくない。
私は、やるせない気分で唇を噛んだ。
チクチク痛む心の中でたった一つ、道筋が見えた気がする。


『僕を好きになって』


霧生君は、私にそう言ったけど。
本当にこのまま一生夫婦を続けるのなら……好きになってもらわなきゃいけないのは私の方だ。
< 126 / 211 >

この作品をシェア

pagetop