孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
年末に術前検査を済ませていて、その結果が上がってきているはずだ。
この後、その一人の術前訪問を控えているから、目を通しておきたい。
空いているパソコンを探して、辺りに視線を走らせると。


「霧生、こっち来い」


奥まったデスクでパソコンに向かっていた医師が僕に気付き、手を上げて合図した。


「一色先生。お早いですね」

「ああ。心臓外科の木山(きやま)から、患者の相談受けててね。回診に遅れるから、昼は抜いてそのまま来た」


医師としてあまり褒められないことを平然と口にする彼は、一色侑弥(ゆうや)
脳外科の准教授で、現在三十六歳。
僕の直属の上司だ。
世界的に名の知れたスーパードクターで、もちろん僕も、パリにいる時からよく知っていた。
尊敬する医師がいる病院というのも、教授からの招致を受ける上で後押しになった。


「それより、霧生」


僕が側まで歩み寄ると、一色先生はノートパソコンをこちらに向けてきた。


「君ならどう診る?」


そう問われ、僕も背を屈めてモニターを覗き込んだ。
年末に心筋梗塞で救急搬送されてICUに入院中の、七十代男性患者のカルテだ。


「搬送後すぐ、心臓外科でPCI施行。経過は良好だ。しかし……」


彼の説明を耳に、様々な検査データやCT画像に目を凝らした。
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