孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「もう一年終わるのね……。どうする? 霞。私たち、来年三十一だよ」


クリスマスはスルーして、一年が終わる方を嘆く彼女に、私の眉尻は下がったまま。
お互い新人当初からずっと仕事に追われ、クリスマスどころじゃなかった。
毎年すっかり忘れていて、夜になってから看護師寮に残っている同期を呼び集め、誰かの部屋でささやかな飲み会を開いていた。
最近は、そもそも寮で暮らす同期が少なくなって、そんな飲み会もなくなってしまったけれど。


「一年、あっという間だったね」


私は操にそう返し、電子カルテに目を戻した。
彼女は、軽く椅子を軋ませて背を起こし、


「でも霞、今年のクリスマスはデートでしょ?」


間を阻む互いのパソコンモニターを避け、横からひょいと顔を覗かせてくる。


「え」

「放射線科のなんちゃら君」

「あ~……」


操が言う『放射線科のなんちゃら君』とは、落合(おちあい)(つよし)
私たちの二つ下で、三ヵ月前まで私が付き合っていた彼だ。
私は、「はは」と乾いた笑い声を漏らした。


「落合君。……実は、別れたんだ」


さらっと答えると、操は同じ体勢のまま、パチパチと瞬きを繰り返し、


「え!?」


たっぷり二拍分は間を空けて、声をひっくり返らせた。
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