孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
とにかく、大失敗。
完全に出方を間違えた。
だけど、一つだけはっきりしたことがある。


『このまま一生未経験で構わない』


そう言われて、胸がチクチク痛くて苦しくて……。
あれからずっと落ち込んでいるのは、バカな真似をしたことへの後悔だけじゃない。
霧生君がこの先一生、私に触れてくれないなんて嫌だ。
そう思うのは、私が霧生君のことが好きだから――。


「うわあ……」


突如、はっきり自覚した想いに焦り、私は頭から蒸気が噴射する勢いで顔を茹らせた。
慌ててテーブルから顔を上げ、いちご牛乳のパックを頬に当てて冷まそうとする。
もちろん、そんなことで火照りは引かない。
私は両手で頬杖をついて誤魔化した。
猛烈に加速する心拍を鎮めようと、お腹の底から太い溜め息をつく。


「もう、恋なんてしないはずだったのに……」


誰にともなく独り言ち、ぼんやりと窓の方を見遣った。
舌の根も乾かぬうちに、あっさり次の恋に落ちるなんて――。


霧生君って、経験や自覚がないだけで、結構魔性の男なのかも。
少なくとも、私なんかよりよっぽど、恋愛の素質がある。


責任転嫁に近い馬鹿な考えを巡らせて、激しい胸の鼓動を鎮めようとした、その時。
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