孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
その日、私は仕事を終えると、まっすぐ看護師寮に向かった。
寮の自室に戻るのは、三ヵ月半ぶり。
八年も暮らしていたのに、誰か他の人の部屋みたいなよそよそしい空気に、疎外感を覚える。
なのに、どこになにがしまってあるかは熟知している……自分の部屋に土足で踏み入るような、不思議な感覚。


私は、クローゼットの前に立った。
アコーディオン式の戸を開け、床に直に座る。
首を突っ込んで引っ張り出したのは、中学校の卒業アルバムだ。
私は妙な緊張からごくっと唾を飲み、横座りしてアルバムを広げた。


アルバムは、前半はクラス毎、後半は部活動や委員会、行事毎のレイアウトになっている。
私と霧生君はD組だった。
ドキドキしながら、D組のページを開いた。


あいうえおの出席番号順に、名前が付された個人の顔写真が並んでいる。
いかつい学ラン制服の男子の写真……順繰りに目で追わなくても、霧生君はすぐに見つかった。


今の彼とは似ても似つかない、まん丸の顔。
卒業アルバムの写真撮影だから、皆いつもより小綺麗にしてるのに、彼は前髪と眼鏡でほとんど顔立ちがわからない。
伏し目がちで、皆が笑顔の中、かえって目立つ。


「あは。懐かしい……」


私は自然に、そんな声を零した。
『霧生颯汰』と振られた名前を指でなぞり、ついつい目尻を下げた。
セーラー服の女子の方には、私の写真がある。
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