孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす～契約離婚するはずが、容赦なく愛されました～

『君はお人好しで……優しくて、残酷だ』


契約結婚を迫られた時、霧生君にそう言われたことを思い出す。
あの言葉は、やっぱり私を恨んでいたから……？
心臓が抉られるようにドクッと沸き立った、その時。


「霞？　いるの？」


玄関のドアをノックする音に、ハッと我に返った。
ドアの向こうから遠慮がちに聞こえるのは、操の声。
私はアルバムを胸に抱えて、急いで立ち上がった。
玄関に走り寄り、勢いよくドアを開け……。


「みさ……」

「霞っ！」


頭上から降ってきた濃い影で視界が暗くなり、ギョッとして顔を上げた。
私の目の前に、ロングコートを羽織った霧生君が、少し強張った顔で立っている。
彼の向こうにいる操は、部屋着に眼鏡……完全オフモードの格好だ。


「き、霧生君？　操……？」

「霞が帰ってこない、知らないかって、駆けつけてこられて」


私が困惑して交互に視線を向けると、操が呆れ顔で腕組みをした。


「まだ十時半じゃない。門限、大学生並み？　そのうち帰ってくるでしょって言ったのに、確認させてくれって聞かないから」

「十時半……え？　もうそんな時間？」


霧生君に言わずに寮に戻ってきたせいで、無駄な心配をかけてしまったようだ。
彼女の説明の途中で、私は彼に目線を上げた。
目が合うと、彼の方から逸らしてしまう。