孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
午前九時。
始業時間と同時に、手術部の中会議室で、術前カンファレンスが始まった。


「お忙しい中、ご参集くださり、ありがとうございます」


私と操を招集した脳外科の一色先生が、いつもと変わらない淡々とした口調で挨拶をした。
会議室には私たちの他に、心臓外科の木山准教授、麻酔科の剣崎(けんざき)准教授、リハビリテーション科から医師と言語聴覚士、理学療法士、そして……一色先生の隣の席に霧生君がいる。
各科のスペシャリストが勢揃いしたカンファレンス――詳しい話は聞かずにここに来たけど、相当難しいオペになるのはよくわかる。


「お手元に、資料を配布しました。そちらを参照しながらお聞きください」


一色先生が、プロジェクターにパワーポイントを投影する。
私は、向かい側に座る霧生君を気にして、やや緊張気味に資料を開いた。
プロジェクターには、患者情報が映し出されている。


「患者氏名、酒巻(さかまき)寿史(ひさし)さん。年齢七十一歳。昨年十二月三十日、心筋梗塞で当院に救急搬送された患者です」


木山先生が、鼻根で眼鏡をくいと持ち上げてから、患者について説明を始めた。
搬送後、カテーテル術を施行し、経過は良好。
現在、心臓外科病棟で療養を続けている。
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