孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
だけど、搬送時の脳CTで、前交通動脈に未破裂脳動脈瘤と前頭葉に脳腫瘍が発見された。
患者は大学教授でまだバリバリの現役。
家族は、動脈瘤のクリッピングと腫瘍摘出を希望していると言う。


「一度の開頭で両方の処置を済ませてほしいというのが、家族の意向です」


木山先生の発言に一瞬、場がどよめいた。


「バリバリの現役と言っても高齢には変わりないし、短期間で複数回のオペは体力面の不安があります。かと言って一度でとなると……かなり長い時間開頭状態になりますよね。別のリスクがあるのでは」


私の隣で操がグッと顎を上げ、一色先生を注視した。
それには私も皆も、小さく頷いて同意する。
一色先生も、彼女の意見を認めた。


「その上、腫瘍は言語野にある。今までと変わらず教壇に立って講義がしたいという希望を叶えるためにも、できる限り後遺症を回避する方法で臨む必要がある。そこで……」


言葉を切った彼の視線を受け、それまで黙っていた霧生君が目線を上げた。


「全身麻酔で、脳動脈瘤と腫瘍までのアプローチを同時進行で行います。クリッピング完了後、患者を覚醒させて腫瘍切除範囲を決定します」


一色先生以上に落ち着き払って説明する彼に、私はゴクッと喉を鳴らした。


「覚醒下術……」


無意識に、自分の口で唱える。
術中、患者を覚醒させ、脳に電気刺激を与えて反応を確認しながら、細かくマッピングして施術範囲を決める。
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