孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
後遺症を防ぐのに有効な術式だ。
うちの病院でも、年間数例の実績がある。
だけど、それはどれも脳腫瘍摘出のみの単独オペだ。
脳動脈瘤のクリッピングも並行となると、前例がない。


私以外の皆の反応も、ほとんど同じだ。
戸惑いの色濃く、隣同士でコソコソ言葉を交わし合う様子が見られる。
それを横目に、霧生君が説明を続ける。


「クリッピングを一色先生、腫瘍摘出を私が担当します。長時間のオペは患者の負担になるため、トータル九時間以内で終わらせます」

「九時間……かなりの大手術になるのに、そんな短時間で?」


私は、思い切って質問を挟んだ。
彼の視線が、静かにこちらに向けられる。


「もちろん、簡単じゃない。それを可能にするために、私と一色先生でチームメンバーを選抜し、今オペを布陣させてもらいました」

「っ、え?」

「全身麻酔から局所麻酔、術中覚醒、最後は傾眠へとコントロールする……麻酔科医には、より高度で難易度の高い技術を要求することになります。だから、臨床経験豊富な剣崎准教授に」


霧生君から視線を向けられた剣崎先生は、一瞬虚を衝かれた表情を見せながらも、白衣の襟を正した。
その仕草に、スーパードクターと脳外科のホープから指名された誇りと、麻酔科准教授のプライドが滲み出ている。
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