孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「あの……一色先生、霧生先生。ありがとうございます」


深く頭を下げてからゆっくり背を起こすと、二人ともきょとんとした目で私を見ていた。


「あ、ええと……私を選抜してくれて」


一人で感極まったみたいな自分が気恥ずかしくて、ポリッとこめかみを掻いてはにかむ。
すると、一色先生が目を細めた。


「礼を言う気になれるのも今のうちだ。恐らく、今までに携わったことのない過酷なオペになる」

「ひえっ……」


涼しい顔して脅かされて、思わず声をひっくり返らせた私に、霧生君がプッと吹き出す。


「大丈夫だよ。茅萱さんと鹿野さんは、いつも通りに臨んでくれれば。余分な緊張は、僕と一色先生に預けて」


頼もしい一言に、私の胸がドキッと弾む。


「う……は、はい」


いつもの調子で頷こうとして、慌てて言い直した。
何故だか、頬が熱を帯びる。
一色先生が、ふっと微笑み……。


「二人とも、これからオペまでに術中の役割や段取りの件で、打ち合わせに来てもらうことが多くなる。よろしく頼むよ」

「はい」


私と操は、シャキッと背筋を伸ばして返事をした。
一色先生が目礼して、先に歩き出した。
だけど霧生君はその場に立ち止まったまま、顎を引いて私を見下ろしている。


「? あの……?」


視線に怯み、遠慮がちに訊ねると。
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