孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「ご……ごめんね。私、明日だと思ったら、落ち着かなくなっちゃって」

「当然だよ。僕も一色先生も……みんな一緒だ」

「……え?」


情けない弁解にさらりと同調されて、一瞬の間を置いて聞き返した。


「一色先生も、能楽に驚かないようにって、医局でイヤホン着けて聞いて、耳慣らしてるし」

「は……」

「剣崎先生は、二つのオペの動画を同時再生して、ブツブツ言ってた。このタイミングか? いや、もうちょっと後だな……って」

「…………」


顔を上げ、パチパチと瞬きする私に、霧生君が目尻を下げる。


「僕も。一色先生のクリッピング術の動画を何度も見た。先生の手元を妨げない角度を探って、器具を動かす練習したり」

「霧生君も、エアトレーニング……?」


思わず質問を挟むと、「そう」と相槌が返ってきた。


「そうやって、無事に終えられるように祈ってる。どうしようもなくなって、昨日は神頼みに行った」

「あ、あの神社に?」

「うん。……あ、でも、去年の霞の神頼み、叶わなかったんだっけ」


目線を上に向けて意地悪に呟く彼に、私はプッと吹き出した。


「もう……そんなこと言ったら、バチ当たるよ」
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