孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
クスクス笑いながら咎めると、霧生君が目を細めた。


「そうだね。でも、神頼みなんかしなくても、これだけ皆が必死に取り組んでるんだ。きっと、成功する」

「……うん」


――不思議。
霧生君の一言で、駆り立てられるほどだった不安と緊張が、スーッと鎮まっていく。
私は、胸を動かして深呼吸をした。
そうして彼に真正面から向き直り、笑顔を浮かべる。


「大丈夫。一緒に、成功させよう」


私が声を張ると、霧生君も頷いて返してくれた。
そして――。


「っ……霧生君」


そっと抱き寄せられて、私は目を瞠った。
霧生君は黙ったまま、ほんの一瞬、腕に力を込めた。
自分の胸に、私をきゅっと抱きしめ……。


「明日、オペが終わったら……」

「え……?」


耳元で囁かれ、私はドキッとして身体を竦めた。
それが伝わってしまったのか、霧生君がゆっくり腕を解く。
私から目を逸らし、一歩後ずさると。


「なにも考えずに、今夜はしっかり休んで」


操と同じことを言って、くるりと踵を返した。


「きりゅ……」

「お休み」


私のとっさの呼びかけも短い挨拶で制し、オペ室から離れていってしまった。
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