孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす～契約離婚するはずが、容赦なく愛されました～

「α波出現。BIS値75。呼びかけてください」


脳波をモニタリングしながら、剣崎先生が指示した。
言語聴覚士が、やや緊張気味に前に出る。


「酒巻さん。……酒巻さん、聞こえますか？」

「……あ」


酒巻さんから、反応が返ってきた。
オペ室内の全員が、条件反射的にホッと吐息を漏らす。
剣崎先生が酒巻さんに痛みや吐き気の有無を訊ね、局所麻酔の微調整を行っている。


いよいよ、ここからが覚醒下術の正念場だ。
霧生君が電極を使って、腫瘍直上と周囲の脳表に電気刺激を与える。
言語聴覚士は、CDを話題に短い会話をしたり、絵を見せて描かれているものがなにか、患者に答えてもらう。


言語センサーが潜む位置を刺激すると、一時的に患者の声が出なくなったり、答えられなくなったりする。
ミリ単位で電気刺激を行い、反応の境界線を丁寧に探っていく。
言語聴覚士が判定した位置に、一色先生がマッピングを施す。


言語と同様、理学療法士が患者に手足を動かしてもらうよう声掛けして運動機能を、リハビリテーション科医師が簡単な計算問題に答えてもらうことで高次機能の判定を行う。
三十分ほどかけて綿密に測定してセンサーを割り出し、マッピングが完了した。