孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「言葉」

「そう」


視界の端に、男の人にしては細く長い指が、少し跳ねた私の髪を弄ぶ様が映り込む。


「僕の世界には、茅萱さんだけいてくれれば、他には誰も要らない」


私の額の先で、彼の薄い唇がゆっくり動く。


「? うん……?」

「……やっぱり、今でも伝わらない」


きょとんとして瞬きをする私の前で、霧生君ががっくりとうなだれた。


「き、霧生君?」

「中学の時、君は僕がこう言ったことも覚えてない?」

「覚えてるよ。すごいこと言われた。私、神様みたいって思ったし」

「……まあ、間違っちゃいない。神様みたいな存在ではあった」


私が胸を張って返事をすると、彼は何故か苦い顔で、お腹の底から深い息を吐いた。


「でも、言いたかったのはそんなことじゃない。僕はあの時、君が好きだと伝えたかった」


視線を横に流し、ほんのちょっと不服そうに早口で捲し立てる。


「……え?」


一瞬、なにを言われたのか理解が繋がらず、私の反応は遅れた。
呆然として、大きく見開いた目を凝らす。
霧生君は、私の視線が居心地悪そうに、短い前髪を掻き上げた。


「君は僕の初恋の人で、人生でたった一人、好きになった女性だった」

「う、嘘」
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